多頭飼育で同居していた子を見送ったあと、もう 1 匹の様子がいつもと違うと感じている飼い主さんへ。残された子に観察される 6 つの行動変化と、いつまで様子を見ていいか、いつ動物病院に相談すべきかを、編集部が学術ソースから整理しました。
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目次
多頭飼育のペットロスで、残された子にも変化は起きるのか

多頭飼育で同居していた子を見送ったあと、残された子にも行動の変化が観察されることがあります。ただし、動物の内面に人間と同じ「悲しみ」があるかどうかは、現時点では科学的に完全には解明されていません。本記事は、擬人化を避けながら「行動として観察できる変化」と「飼い主さんが取れる対応」に絞って整理します。
なお、飼い主さん自身のペットロスのケアと、残された子のケアは別の話です。両方とも大事ですが、本記事は「残された子側」に絞り、飼い主さん側は別記事のペットロスの回復ガイドを案内します。
擬人化せず、行動変化として捉える
研究の世界では、行動変化を「悲嘆そのもの」と解釈する見解があります。一方で、「環境変化への適応」「分離不安に似た反応」「資源シフト」と解釈する見解もあり、複数の説が並立しています。動物行動学者の Marc Bekoff 博士 (コロラド大学ボルダー校名誉教授) は、こう述べています。「犬は仲間が死んだことを理解しているとは限らないが、その個体がいなくなったことは認識している」。
本記事では「悲しんでいる」ではなく「○○のような行動が観察される」という書き方で統一します。擬人化を避けることで、別の病気との見分けもつきやすくなります。
犬と猫で出方は違うのか
Walker 2016 (犬 159 頭・猫 152 頭の飼い主観察データ) では、犬・猫ともに最も多く報告された変化は「愛着行動」と「縄張り行動」でした。犬の愛着行動の変化は 74%・猫は 78% に観察されています。
一方で、犬では食事量の減少 (35%) と睡眠時間の増加 (34%) が、猫では発声の増加 (43%) が目立つという違いも報告されています。種ごとの傾向はあっても、個体差は大きい、というのが研究側の中立的なまとめ方です。
観察リスト: 残された子の 6 つの行動変化
残された子に観察される可能性のある行動変化を、6 つに整理します。元データは 2 つ。AKC が示す残された犬の悲嘆サイン 8 項目と、Walker 2016 の犬・猫の行動変化分類です。これを飼い主さんが家で観察しやすい形に直しました。
各項目に「観察してよい範囲」と「早めに相談すべきライン」の目安を併記します。ただし個体差は大きいので、固定の基準ではなく、「うちのこではどうか」を見るための物差しとして使ってください。
食欲が落ちる: フードを残す / 大好物を拒む
最初に出やすいのが食欲の変化です。Walker 2016 では、犬で食事量が 35% 減少した例が報告されています。Walker 2016 が引用している Schultz ら (1996) の調査では、犬の 36%・猫の 46% に食事量の減少が報告されました。
観察してよい範囲は「いつものフードを残す」「大好物への反応が鈍い」が数日続く程度。早めに相談すべきラインは「丸 1 日以上、水も含めて口にしない」「急に痩せてきた」「嘔吐や下痢を伴う」です。後者は別の病気が隠れている可能性もあるので、グリーフと決めつけずに動物病院へ。
鳴き続ける・後追いをする
亡くなった子を呼ぶような鳴き方や、飼い主さんへの過剰な後追いも報告されている変化です。Walker 2016 では猫の 43% に発声頻度の増加・32% に音量の増加が観察されました。犬では飼い主への異常な依存・後追いが AKC の悲嘆サイン 8 項目にも含まれています。
観察してよい範囲は「夜中にときどき鳴く」「家の中で常にそばにいたがる」程度。早めに相談すべきラインは「数時間連続で鳴き続ける」「鳴き方が苦しそう」「飼い主さんが見えなくなった瞬間にパニックになる」場合です。分離不安症との見分けが必要になることがあります。
遺品や遺体を探して家中を回る
亡くなった子が使っていた寝床やトイレを巡回したり、玄関で待ち続けたりする行動も観察されています。Walker 2016 では、縄張り行動が変化した猫が 152 頭中 96 頭 (63%) に上りました。そのうち 36% は「亡くなった同居動物のお気に入りだった場所を探す」行動を示しています。ASPCA 1996 でも犬の 27%・猫の 41% が「亡くなった子のお気に入りの場所」を探したと報告されています。
観察してよい範囲は「ときどき寝床に行って匂いを嗅ぐ」程度。早めに相談すべきラインは「同じ場所を何時間も行ったり来たり続ける」「夜通し探し回って眠らない」「探しながら吠え続ける」が数日以上続く場合です。
睡眠が減る・夜中に鳴く
Walker 2016 では、犬の睡眠時間が 34% 増加した例が報告されている一方で、夜中の発声増加も観察されています。「よく寝るようになった」と「夜中に何度も起きて鳴く」は、同じ研究の中で両方とも観察されている変化です。
観察してよい範囲は「日中の昼寝が増える」「夜中に 1〜2 回起きてうろつく」程度。早めに相談すべきラインは「数日以上ほとんど寝ていない」「夜泣きが毎晩 1 時間以上続く」「日中もぐったりして反応が薄い」場合です。睡眠の変化は加齢や別疾患でも起きるので、年齢が高めの子は特に動物病院での相談を優先してください。
元気がなくなる・遊ばなくなる
散歩を拒む、おもちゃに反応しない、家族からの声かけにも反応が鈍い、といった全体的な活動量の低下も観察されることがあります。AKC は「人や他のペットからの引きこもり」「嗜眠状態 / 通常より長い睡眠」を残された犬の悲嘆サインに挙げています。
観察してよい範囲は「お気に入りの遊びへの食いつきが鈍い」「散歩のペースが遅い」程度。早めに相談すべきラインは「立ち上がるのもつらそう」「呼びかけにまったく反応しない」「数日以上続いて悪化している」場合です。老化との区別がつきにくい症状なので、年齢が高めの子は、シニア期の見極めとあわせて獣医師に相談してください。
攻撃性や粗相が出始める
家族や他の同居動物への当たりが強くなる、トイレ以外で排泄する、家具を破壊する。これらの変化も AKC の悲嘆サイン 8 項目に含まれています。Walker 2016 は、こうした変化が分離不安症 (separation anxiety) に類似する反応として観察される、と指摘しています。
観察してよい範囲は「ときどき粗相する」「家族にうなる回数がやや増える」程度。早めに相談すべきラインは「家族や他の同居動物に噛みつく」「毎日のように粗相する」「破壊行動が止まらない」場合です。問題行動が定着する前に、行動診療の専門家に相談する選択肢があります。
いつまで様子見でいいか: 期間の目安と受診の見分け
→ 関連: 老犬の終末期サインと看取り判断
「いつまで見守っていいのか」「いつ動物病院に連れて行くべきか」は、多頭飼育のペットロスでいちばん判断が難しいところです。学術的な目安と、別の病気との見分け方を整理します。
なお、巷でよく言われる「2 週間で落ち着く」という目安は、編集部が確認した範囲では学術的な裏付けが限定的でした。臨床の現場でよく挙げられる経験則として参考にする程度にとどめてください。
行動変化の継続期間は「種類によって異なる」
Walker 2016 では、行動変化の継続期間を行動の種類ごとに分けて報告しています。愛着行動と睡眠行動の変化は中央値で 2〜6 ヶ月続いたのに対し、縄張り行動と食事行動の変化は中央値 2 ヶ月以内に収まりました。猫の発声・縄張り行動の変化も中央値 2 ヶ月以内です。全体としては、報告された行動変化の継続期間の中央値は 6 ヶ月未満でした。
つまり「食欲の変化や場所の探索」は比較的早めに落ち着く一方で、「愛着の表し方や睡眠パターンの変化」は数ヶ月単位で続くことがある、と読み取れます。これはあくまで研究データの中央値で、個体差が大きい点には注意してください。
1 ヶ月続いたら一度動物病院に相談を
Walker 2016 のデータをふまえると、「食欲や場所の探索が 1 ヶ月以上続く / 改善傾向が見えない」場合は、いったん動物病院で相談する目安にできます。食欲低下や粗相、攻撃性などの行動変化は、グリーフ以外の病気 (内臓疾患・痛み・甲状腺機能異常など) でも起こりえます。グリーフと決めつけて見過ごすと、別の治療機会を逃すリスクがあります。
受診時には、観察メモを持って行くと話がスムーズです。記録しておくと役立つのは、症状が始まった日付、食欲・睡眠の変化、特徴的な行動の動画 (1〜2 本)、変化の頻度と継続日数の 4 つです。
数ヶ月以上続く・悪化するなら別の病気や行動診療の専門科へ
Walker 2016 では、多くの行動変化が中央値 6 ヶ月未満で収まりました。数ヶ月以上続く・むしろ悪化しているという場合は、グリーフだけで説明できない可能性が高くなります。Walker 2016 自身も、行動変化が「悲嘆そのもの」なのか「分離不安に類似する反応」なのか、複数の解釈が並立すると指摘しています。
通常の動物病院での検査で身体疾患が否定されたあと、行動の問題が続く場合は、獣医行動診療の専門科に相談する選択肢があります。一般社団法人日本獣医動物行動学会 (旧 日本獣医動物行動研究会 / 2025 年に学会化) は、2013 年から「行動診療科認定医」の認定制度を運営しています。2025 年時点で 19 名の認定医が在籍しています。かかりつけ医からの紹介、または学会サイトで認定医を探す形で受診できます。
なお、シニア期に入っている子の場合は、老化との見分けが特に難しくなります。終末期判断の考え方は、別記事のシニア犬・シニア猫の終末期ケアも参考にしてみてください。
→ 関連: 老猫の終末期サインと看取り判断
遺体に対面させるべきか: 両論を整理
→ 関連: ペット遺体の安置と保冷の手順
「亡くなった子の遺体を、残された子に見せてあげるべきか」という相談は、多頭飼育でとても多い悩みです。賛成派・反対派の両方の見解があり、結論から言うと、現時点で学術的に明確な答えは出ていません。両論を整理した上で、性格別の判断軸を添えます。
火葬・供養までの遺体の扱いそのものは、別記事のペット遺体の安置方法や四十九日の供養を参照してください。
対面させるメリットとされる説
「残された子に遺体を見せると、状況を理解しやすくなり、探し続ける行動が減る」という見解があります。修道院系の看取り文化 (たとえばニューヨーク州のニュー・スキート修道院) や、一部の臨床経験から、「対面で気持ちの区切りがつく」と紹介されることがあります。
ただし、この説には強い学術的裏付けがあるわけではありません。あくまで「そういう考え方をする飼い主さん・専門家もいる」というレベルで受け止めてください。
対面させない方が良いとされる説
一方で、Walker 2016 は遺体対面の効果について、重要な数値を報告しています。対象は 158 頭の残された動物 (犬 58% / 猫 42%)。遺体を見た群と見なかった群の間で、その後の行動変化に統計的有意差は出ませんでした (χ² = 1.825, df = 1, p = 0.22)。遺体を見た動物の 73% が遺体を嗅いだり調べたりしたものの、その後の行動が落ち着きやすかったとは言えなかった、という結果でした。
つまり「見せれば探し続けが減る」という効果は、学術データ上は確認できなかった、というのが正直なところです。神経質な子や、別の同居動物の死を理解する経験がない子にとっては、かえって混乱の原因になる懸念を示す行動学者もいます。
性格別の判断軸
両論ふまえると、見せる・見せないは「うちのこの性格」で判断するしかありません。ふだんから人慣れ・他の動物慣れしていて落ち着いている子なら、短時間の対面でも大きな負担にはなりにくいと考えられます。神経質で物音や見慣れない状況に強く反応する子は、対面させない選択肢のほうが負担が少ないかもしれません。高齢の子は、対面そのものよりも環境の急変 (家族の動揺や葬儀の準備) のほうが影響が大きい場合もあり、いつもの生活ペースを保つことを優先したいところです。
どちらを選んでも「正解」と「失敗」があるテーマではない、というのが編集部の整理です。飼い主さんが納得できる方を選んでください。
新しい子を迎えるタイミング: 残された子の性格別に
「次の子を迎えたほうがいいのか」「いつ頃がいいのか」も、よくある相談です。残念ながら、編集部が確認した範囲では「死別から最低何日空けるべき」という数値目安に高い信頼性のソースは見つかりませんでした。一律の目安はない、というのが正直なところで、残された子の様子と飼い主さんの気持ちの両方で判断するのが現実的です。
残された子の性格を見極める 3 つの観点
判断材料になる観点を 3 つ挙げます。1 つめは、社交性。ふだんから他の犬・猫と遊ぶのが好きな社交的な子は、新しい同居動物を受け入れやすい傾向があります。一方で、もともと単独行動が好きな子や、亡くなった子と特に強い結びつきがあった子は、新しい関係を築くのに時間がかかります。
2 つめは、年齢。高齢の子は環境変化への適応力が下がりやすく、新しい子のエネルギーに圧倒されてしまうことがあります。3 つめは、現在の行動変化の落ち着き具合。Walker 2016 のデータでは食事や場所の探索は中央値 2 ヶ月以内、愛着や睡眠は 2〜6 ヶ月続くことが報告されています。少なくとも食欲や睡眠が安定してから検討するほうが、残された子への負担が少なくて済みます。
迎えてから 1 ヶ月で見直す
新しい子を迎えると決めた場合、迎え入れから 1 ヶ月をめどに、残された子の様子を見直す時間を持つことをおすすめします。攻撃性が増えていないか、食欲・睡眠は保たれているか、ストレスサインが出ていないか。問題が出ていたら、面会の時間や生活空間を分けるなどの調整を、早めに動物病院や行動診療の専門家に相談してください。
新しい子を迎えること自体は否定しません。ただ、飼い主さん自身がペットロスの最中にある時期は、判断が偏りやすいタイミングでもあります。「寂しさを埋めたい」気持ちで早く迎えたあと、残された子と新しい子の関係調整がうまくいかないケースもあります。逆に、先送りした結果、飼い主さん自身が抱え込んでしまうケースも。どちらに偏らないように、信頼できる人と相談しながら時期を決められると安心です。
関連記事: ペットの四十九日と供養の選択肢
まとめ: 観察記録を持って動物病院へ

本記事で整理した 5 つの軸を改めてまとめます。
- 6 つの行動変化を、観察してよい範囲と早めに相談すべきラインで切り分けて見る (食欲低下 / 後追い / 探索 / 睡眠 / 元気消失 / 攻撃性・粗相)。
- Walker 2016 を目安にすると、食事・縄張り行動の変化は中央値 2 ヶ月以内、愛着・睡眠の変化は中央値 2〜6 ヶ月、全体は中央値 6 ヶ月未満。
- 1 ヶ月以上続く・悪化する場合は、グリーフと決めつけずに動物病院へ。
- 遺体対面は学術的に効果が確認されておらず、残された子の性格で判断するしかない。
- 新しい子を迎えるタイミングに一律の目安はなく、残された子の様子と飼い主さん自身の気持ちの両方で決める。
残された子のケアと、飼い主さん自身のペットロスのケアは、両方とも大事です。どちらか片方を後回しにしなくて構いません。
本記事は獣医師による監修記事ではなく、編集部が学術文献と業界団体の情報をもとに整理したものです。実際の判断は、かかりつけの動物病院や、日本獣医動物行動学会の行動診療科認定医に相談しながら進めてください。
出典
: Walker JK, Waran NK, Phillips CJC (2016) Animals 6(11):68。犬 159 頭・猫 152 頭の飼い主観察データに基づく査読研究 (PMC5126770)。 URL: pmc.ncbi.nlm.nih.gov/PMC5126770
: Walker 2016 (同上)。遺体対面群と非対面群の行動変化に統計的有意差なし (χ² = 1.825, df = 1, p = 0.22)。
: Schultz JL ら (1996) ASPCA Companion Animal Mourning Project。一次資料は冊子のため、Walker 2016 経由で参照しています。
: Walker 2016 (同上)。愛着・睡眠は中央値 2〜6 ヶ月、縄張り・食事は中央値 2 ヶ月以内。
: American Kennel Club「Do Dogs Grieve Over Lost Loved Ones?」記事内の 8 項目。 URL: akc.org/expert-advice/
: AKC 同記事内引用: Marc Bekoff (コロラド大学ボルダー校名誉教授 / 『Canine Confidential』著者) の見解。
: 「Can Animals Grieve?」Ergo (University of Michigan Publishing, 2024)。動物の悲嘆の科学的レビュー。 URL: journals.publishing.umich.edu/ergo/article/id/6157
: 一般社団法人日本獣医動物行動学会 (旧 日本獣医動物行動研究会)。行動診療科認定医制度 2013 年発足。2025 年時点で認定医 19 名。 URL: vbm.jp
: Walker 2016 (同上)。猫の縄張り行動の変化 63%、うち 36% が亡くなった同居動物のお気に入りの場所を探す行動。発声頻度の変化 46% (うち 43% 増加)、音量変化 35% (うち 32% 増加)。
: Walker 2016 (同上)。行動変化が「悲嘆そのもの」か「分離不安に類似する反応」か、複数の解釈が並立。