数日前から食欲が落ちて、今日は下痢まで出ている。そんな13歳以上の老犬と暮らす飼い主さんへ。業界5年のわたしたち編集部が、慢性膵炎・IBD・慢性腎臓病末期の鑑別3軸と、様子見でよい2条件・すぐ受診すべき5サインを整理しました。病名を当てるための記事ではなく、今日の行動を決めるための記事です。
目次
「食欲不振と下痢が同時に来た」でまず見る3つの観察軸

結論からお伝えすると、老犬が食欲不振と下痢を同時に出している時は、片方だけの時より一段階慎重な対応が必要です。獣医師のコラムでは、成犬なら3日以上下痢が続いた時が受診の目安とされます。ただし老犬では短時間で脱水を起こしやすく、下痢をきっかけに寝たきりになってしまうケースもあるため、早めの対処が必要とされています。
まず確認したいのが次の3つの観察軸です。1つ目は下痢の色。茶褐色・黄色・黒っぽいタール便・鮮血混入・粘液のゼリー状のどれに近いかを片付ける前に確認します。2つ目は回数で、直近24時間と6時間で何回下痢をしたかをメモします。3つ目は血液の混入で、鮮やかな赤なのか、赤黒いタール状なのかを見分けます。
老犬 (13歳以上) は慢性腎臓病・心疾患・肝疾患・内分泌の病気などを抱えやすい年代です。持病がある子では「今回の下痢が持病の悪化なのか、別の消化器疾患なのか」の切り分けが最優先になります。下痢がなく食欲不振だけが数日続いている時は、老犬の食欲不振で受診すべきタイミングにまとめています。
下痢の色で出血部位と疾患方向が変わる
下痢の色は、疑いの方向を絞り込む一番わかりやすい手がかりです。獣医師監修サイトでは、便に粘液が混じるなら大腸のトラブルが挙げられています。便の表面に赤い血が混じるなら、大腸のトラブル・細菌感染・アレルギー・ポリープ・腫瘍などが候補です。
黒っぽいタール状の便は、胃や十二指腸・小腸のトラブル、細菌感染、肝疾患、腫瘍のサインとされます。消化管の上部で出血した血液は途中で消化されるため、色が黒っぽく変わるからです。白灰色の軟便は膵臓や胆嚢のトラブル、便が緑色っぽいなら腸で胆汁が再吸収されていない状態、便に強い異臭があれば消化吸収不良を疑う方向です。「これはいつもの便と違う」と感じた色は、まずスマホで1枚撮っておいてください。
3疾患の鑑別サイン: 慢性膵炎・IBD・慢性腎臓病末期
老犬の食欲不振と下痢で想定したい代表的な病気を、時間経過が短い順に3つ整理します。挙げるのは「疑いの方向」までで、確定は動物病院の検査でしか分かりません。次の表を、後述の即受診5サインと照らし合わせる材料にしてください。
| 疑わしい状態 | 主な便性状 | 併発しやすいサイン | 発症時間軸 |
|---|---|---|---|
| 慢性膵炎 | 脂っぽい黄色便・白灰色軟便 | 食後の嘔吐・背中を丸めた姿勢 | 数日〜数週間 |
| IBD (炎症性腸疾患) | 数週間以上続く軟便・断続的な血便 | 体重減少・毛づや低下 | 数週間〜数か月 |
| 慢性腎臓病末期 | 水様便・アンモニア臭 | 多飲多尿・体重減少・食欲廃絶 | 数か月〜 |
慢性膵炎: 脂っぽい黄色便 + 食後嘔吐 + 背中を丸めた姿勢
まず慢性膵炎です。獣医師のコラムでは、膵炎は非常に強い腹痛を伴い、嘔吐や食欲不振・元気消失を起こす病気とされています。老犬にも起こりやすい病気のひとつです。
背中を丸めて動かない、頭を低くしてお尻を上げるような姿勢を取る時は、お腹の痛みのサインとして知られています。加えて、便が脂っぽい黄色になったり、食後しばらくして吐く様子が重なったりしたら、早めの相談が安心です。膵臓のトラブルでは、白灰色の軟便が出るケースもあるとされます。急性膵炎は特に肥満犬に多いとされ、ミニチュア・シュナウザーやボーダー・コリー、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークは注意したい犬種として挙げられています。食欲不振と嘔吐の重なりが主症状の時は老犬の食欲不振と嘔吐が重なった時の判断で別軸から整理しています。
IBD (炎症性腸疾患): 数週間以上の軟便 + 体重減少 + 断続的な血便
次にIBD (炎症性腸疾患) です。獣医師の解説では、詳しい原因は現在のところ未解明とされ、数週間以上下痢が続く慢性経過が特徴に挙げられます。老犬に多い原因不明の慢性下痢の背景として、この病名が挙がる場面はよくあります。
サインとしては、数週間以上続く軟便、じわじわ進む体重減少、断続的に混じる血便が代表的です。ジャーマン・シェパード・ドッグやヨークシャー・テリア、ミニチュア・ダックスフンド、フレンチ・ブルドッグ、トイ・プードルは注意したい犬種として挙げられています。「なんとなく便がゆるい状態が長く続いている」時こそ、記録を取って受診に持ち込む価値があります。1日ごとの便の状態と食欲・体重の推移をカレンダーやスマホのメモに残しておくと、獣医師が経過を追いやすくなります。
慢性腎臓病末期: 水様便 + 多飲多尿 + アンモニア臭
3つ目は慢性腎臓病の末期です。獣医師の解説では、腎機能が低下して老廃物を排出できなくなることで吐き気や食欲不振を引き起こすとされています。末期になると、水様の下痢・多飲多尿・アンモニアのような口臭が重なるケースがあるとされています。
すでに慢性腎臓病と診断されている子で、水様の下痢と口臭・多飲多尿がそろってきたら、病気の進行として獣医師と共有すべき局面です。診断がまだの子でも、口臭とやせが同時に進んでいるなら、腎臓の検査を1度受けておく価値があります。口臭と食欲不振の重なりが気になる時は老犬の口臭と食欲不振で見る3タイプで別の切り口から整理しています。
様子見できる2条件 vs 今すぐ受診の5サイン
ここまでの観察を、今日の行動に落とし込みます。老犬では「様子見でよい期間」が成犬より短く、脱水が急速に進むため、判断の上限は12〜24時間と考えて動くのが安全です。まずは様子見が選択肢に入る2条件と、迷わず即受診に切り替える5サインを整理します。
様子見できる2条件: 元気の残存 + 血液混入なし
自宅での様子見が選択肢になるのは、次の2条件がそろっている時に限られます。1つ目は元気と食欲が多少残っていて、便が軟便レベル (泥や水ではない) にとどまっていること。2つ目は便に血液の混入がなく、色も茶褐色〜黄色っぽい範囲にあることです。
獣医師の解説でも、元気や食欲がある場合でも2〜3日下痢が止まらない、あるいは回復に向かう様子が見られない時は受診が推奨されています。老犬ではこの2条件がそろっていても、様子見の上限は12〜24時間で区切ってください。翌日に元気や食欲が戻らないなら、期限を延ばさず動物病院に電話する方が安全です。「もう1日だけ様子を見よう」を繰り返すと、脱水が思ったより進んでいるケースがあります。
今すぐ電話すべき即受診5サイン
次のいずれかに当てはまったら、様子見せず即受診の連絡を入れます。1つ目は鮮血便または黒色タール便が出ている。2つ目は6時間で5回以上の水様便が続いている。3つ目は意識が朦朧としていて、呼びかけへの反応が薄い。4つ目は背中を丸めて動かない、お腹を触ると嫌がるといった腹部激痛のサイン。5つ目は水も飲めない、あるいは飲むとすぐ吐いてしまう状態です。
一番迷うのが「血便ありでも元気がある」層です。鮮血が混じる場合は24時間以内の受診、黒色タール便が出ている場合は胃や十二指腸からの出血の可能性が高いため6時間以内の受診を目安にしてください。判断に迷う夜間は、夜間救急に電話で相談だけしてもらう中間手段があります。「行くべきか迷っている」の一言だけでも、獣医師側で緊急度を判断してくれます。夜間は受診できる病院そのものが限られるため、地域の夜間救急の連絡先をスマホに登録しておくのが安心です。
老犬の脱水危険度チェックと自宅の少量頻回給水
即受診5サインに当てはまらなくても、脱水の進み具合は自宅で確認しておきます。シニア犬は体力が低下しているため、下痢による脱水症状が特に危険とされています。老犬は体の水分量が下がっている分、成犬なら耐えられる程度の脱水でも重症化しやすい点を覚えておいてください。
水分の摂取が難しい状況が続くなら、自宅での様子見にこだわらず、動物病院で相談して点滴の処置をしてもらうのが安全です。自宅での給水は、常温の水を少量ずつ1〜2時間おきに複数回に分けて口元まで持っていく形から試すのが無難です。獣医師が挙げる下痢時に避けたい食べ物の中にも「冷たいもの」が入っているため、お腹を冷やさないよう常温で用意してください。
経口補水液を犬に使ってよいかは、獣医師の指示前提の中立領域です。人間用のOS-1などをうちのこに自己判断で与えるのは避け、動物病院で獣医師が具体的に指示した場合のみに限ってください。水も吐いてしまうなら、自宅給水の判断ではなく即受診に切り替えるサインです。
皮膚つまみ・歯茎・尿量の3点セルフチェック
脱水の進み具合は、自宅でも3つの視点で確認できます。1つ目は皮膚つまみテストです。首の後ろの皮膚をやさしくつまんで放し、戻る時間を見ます。戻りが遅い、または持ち上がったままの場合は脱水の可能性があります。ただし老犬では脱水していなくても皮膚が戻りにくいことがあり、この結果だけで判定しないでください。
2つ目は歯茎の色と乾湿です。淡いピンク色でしっとりしていればOK、白っぽい・乾いている・べたつくなら脱水寄りのサインとされます。3つ目は尿量で、朝から夕方までまったく排尿がない状態が続いていれば危険域と考えてください。3点のどれか1つでも異常があれば、自宅ケアではなく受診に切り替えるタイミングです。特に朝一番の尿の色が濃くなっている時は、前夜からじわじわ水分不足が進んでいる可能性があります。
動物病院に電話する前にメモする6項目
受診の判断がついたら、電話をかける前に手元で次の6項目をメモにまとめておきます。この6項目を伝えられるかどうかで、獣医師が電話口で緊急度を判断するスピードと精度が変わります。
1つ目は下痢が始まった時刻。2つ目は24時間で何回下痢をしたか。3つ目は便の色 (茶褐色・黄色・黒っぽいタール・鮮血混入・粘液のゼリー状のどれか)。4つ目は血液の有無と種類 (鮮血か、タール状の黒か)。5つ目は食欲の残存度 (まったく食べない、いつもの半分は食べる、水は飲む など)。6つ目は元気度と歩行可否 (立ち上がれるか、フラつくか、呼びかけに反応するか) です。
すでに慢性腎臓病・心疾患・肝疾患があったり、服薬中の薬があったりする場合は、既往歴としてあわせて追記してください。「持病あり」の情報は、獣医師の判断を大きく変える材料です。特に、直近1〜2週間で新しい薬が加わっていたり、フードやおやつを切り替えていたりする変化があれば、それも忘れずに伝えます。
もう1つ強くおすすめしたいのが、便の写真をスマホで1枚撮っておくこと。片付ける前で構いません。獣医師が視覚で判断できる材料になり、電話口の言葉より情報量がはるかに多くなります。動画で嘔吐や下痢の様子を撮っておくと、診察時にとても参考になるとされています。夜間救急に電話する場合は、住所と交通手段 (自家用車で行けるか、タクシー手配が必要か) も先に整理しておくと、慌てずに動けます。
慢性下痢化した時の食事療法と「もう検査しない」看取りフェーズ
下痢が2週間以上続く慢性下痢に入った時の食事の考え方と、看取りフェーズに入っているうちのこの判断についても触れておきます。ここは獣医師と相談して決める領域ですが、家族側で選択肢を知っておくと話が進めやすくなります。
軽度の場合は胃腸を休めるため半日〜1日の絶食が有効とされる場面もありますが、何らかの病気が原因の場合は絶食で悪化することもあり注意が必要です。老犬に自己判断で長時間の絶食は行わず、獣医師の指示に沿って進めてください。整腸剤・止瀉薬・抗炎症薬・抗生剤などの対症療法で改善が見込まれる軽度なケースと、根本に病気があり原因治療を優先すべきケースを、獣医師が判断してくれます。
療法食・手作り食・消化酵素サプリの中立比較
慢性下痢化した後の食事は、大きく3つの選択肢があります。1つ目は獣医師処方の消化器サポート療法食で、消化しやすい設計になっているのが特徴です。2つ目は一時的な低脂肪の手作り食です。ササミや脂身のない鶏肉、タラやカレイなどの脂肪分の少ない魚、ふやかしたドッグフード、豆腐、茹でたカブやジャガイモ、すりおろしたりんごなどが候補として挙げられます。3つ目は消化酵素サプリで、あくまで補助的な位置づけです。
どれが正解かは、うちのこの疾患と体重・年齢によって変わるため、獣医師との相談前提です。下痢時に避けたい食べ物としては、硬いままのドッグフード、冷たいもの、牛乳、脂身の多い肉が挙げられています。加えて、サンマやサバなど脂肪分の多い魚や、きのこ・豆類・切り干し大根・ごぼう・さつまいものような不溶性食物繊維の多い食品も避けたい側の代表です。食欲が戻ってきた後の食事作りのコツは老犬の食欲不振向けレシピの記事にまとめています。
看取りフェーズに入っているうちのこの場合は、方針そのものを見直す選択肢もあります。慢性腎臓病末期や悪性腫瘍の終末期、老衰による摂食不能で余命が週単位のフェーズです。獣医師と余命の見通しを共有した状態で「これ以上の検査はせず、残り時間の質を優先する」と決めることは、飼い主さんの怠慢では決してありません。獣医師と余命の見通しを共有していること、家族の合意があること、QOL優先の方針が明確なこと。この3条件がそろえば、検査を続けない選択も家族の正解のひとつです。
検査を続けない場合でも、皮下輸液や制吐剤といった脱水・吐き気の緩和は続けられる選択肢として整理されています。事前に家族で話し合う ACP (アドバンスドケアプランニング) の考え方は、老犬の看取りの時系列ガイドで詳しく解説しています。
まとめ: 3軸観察 → 3疾患鑑別 → 5サインで即受診判断

老犬の食欲不振と下痢が重なった時の行動を、最後に4ステップで整理します。まず色・回数・血液混入の3軸で観察する。次に慢性膵炎・IBD・慢性腎臓病末期の3疾患の方向づけと照らす。即受診5サインにひとつでも当てはまれば電話する。電話の前に6項目をメモする。この順番だけ覚えておけば、パニックの中でも動けます。
老犬は成犬より脱水の進みが早く、様子見の上限は12〜24時間と短めです。翌日に元気や食欲が戻らなければ、期限を延ばさず動物病院に電話に切り替えてください。慢性下痢化しても食事療法の選択肢は複数あり、どれが正解かは獣医師との相談で決める領域です。そして看取りフェーズにいるうちのこの場合は、家族の合意のもとで「もう検査しない」を選ぶことも、家族の正解のひとつです。
迷った時間そのものも、獣医師に伝えれば大事な診断材料になります。「行くべきか判断がつかない」の一言だけでも、電話をかけて損はありません。受診した結果「何でもなかった」なら、それはうちのこの元気を確認できたという収穫です。うちのこのために、そして飼い主さん自身の気持ちの整理のためにも、電話することをためらわないでくださいね。
参考文献
本記事は2026-08-10時点で以下を確認して執筆しました。
専門メディア (獣医師監修・専門ライター)
- 犬の食欲不振・嘔吐・下痢で受診の目安になる症状 — おおした動物病院 (獣医師執筆コラム)
- 老犬の下痢の原因・受診の目安・持参物と食べ物 — リトルファミリー (箱崎加奈子獣医師監修 / 麻布大学獣医学部卒)
- シニア期の食欲不振の原因と受診の目安 — ユニ・チャームペット (鈴木玲子獣医師監修 / 麻布大学獣医学部卒)
- 老犬の下痢の急性・慢性の見分け方と受診タイミング — vetzpetz (牛尾拓獣医師監修 / 岩手大学農学部獣医学課程卒, 2022-10-28 公開)
飼い主体験談 (事例参考)
- シニア犬の下痢と脱水対処の実例まとめ — green-dog (ペットフーディスト監修)